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  • Wアンダーキャブ型キャリアパレット

    Wアンダーキャブ型キャリアパレット

    パレットの下に車両全体がもぐり込む形で、一度に120トンの貨物を運ぶ。車両前後に運転台があるため、バック運転は不要。

九州製鉄所の岸壁出荷能力の向上を目指して

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近年、国内屈指の国際貿易港である北九州港は、取扱貨物量が増加傾向にある。背景には、国内のトラックドライバー不足に伴う海上輸送の拡大や、アジアの新興国を中心とした鉄鋼製品の需要拡大による輸出量の増加がある。
こうしたなか、日本製鉄の九州製鉄所八幡地区(戸畑)では一つの課題を抱えていた。元来、北九州港戸畑地区の専用岸壁から鉄鋼製品を国内外へ海上輸送していたのだが、専用岸壁が狭いため、出荷能力が見合わなくなってきたのだ。今後ますます鉄鋼製品の海上輸送が増えると予測されることから、出荷能力の向上が喫緊の課題だった。

港湾物流特区に認定構内から構外への輸送が必要に

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一方、北九州市は官営八幡製鉄所開所以来、モノづくりのまちとして発展してきたが、地域経済のさらなる活性化のためには、企業などの港湾利用に対する要請には柔軟に対応していきたいと考えていた。そこで、北九州港戸畑地区の公共埠頭周辺を、九州製鉄所をはじめとする鉄鋼関連企業が利用できるように規制緩和する構造改革特別区域計画を国に申請。港湾物流効率化特区に認定されれば、重量物を輸送するのに適した特殊大型車両の走行が可能になる。九州製鉄所にとっては出荷能力を増強できるため願ってもないことだ。このことにより、コンテナバンニング(コンテナ詰め)基地を製鉄所構内から構外の川代地区へ移転させ、コンテナ出荷能力を担保しつつ、構内の出荷能力を増強させることが可能となった。
これに伴い、構内から構外の倉庫までの製品の陸上輸送も実現しなければならない。どんな車両で輸送するのか。その決定から導入までのプロジェクトを任されたのが、九州支店八幡地区の物流技術課に所属する山本哲也だ。

公道を走るために車検取得したCP車が必要

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通常、陸上輸送にはトレーラーが利用される。だが、今回のように鉄鋼製品の輸出に伴うコンテナ輸送では取扱量が膨大だ。1台につき積載量が最大20トン程度のトレーラーでは効率が悪い。なによりドライバーを確保するのも難しい。そこで山本らが着目したのが、キャリアパレット(以下、CP車)と呼ばれる輸送用特殊大型車両だ。積載量は120トン。トレーラーの6台分の貨物を一度に運ぶことができる。構内のコンテナ輸送ではお馴染みの車両だが、本来、公道にCP車を走らせることはできない。重量物の輸送に関わる規制に抵触するからだ。だが今回、特区認定を受けたことで、CP車の公道利用が可能になった。ただ問題は、自動車検査登録制度(以下、車検)を通さなければならないということ。山本は言う。「構内から構外の倉庫までわずか200mとはいえ、公道を走らせるためには絶対にクリアしなければなりません。車検を受け、ナンバープレートを取得したCP車を用意すること。それが私たちに課せられた使命でした。」

車検取得に経験のある車両メーカーを初起用

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そもそも車検とは、道路運送車両法で定められた制度で、公道を走る車は必ず受けることが義務付けられている。安全性や公害防止の観点から点検・整備・検査を行い、国が定める保安基準を満たすことで、自動車検査証(車検証)が交付され、晴れて公道を走ることができる。最初に山本たちが行ったのは車両メーカーの検討だ。構内で使用しているCP車では国の定める保安基準を満たせないため、新たな車両の開発が必要だったのである。比較検討する中で選んだのが除雪機メーカーのN社だ。近年は産業車両分野にも進出し、大型特殊車両の開発・製造も行っている。「日鉄物流グループのCP車としては初めて導入する車両メーカーでしたが、仕様や価格面はもちろんのこと、車検取得に関しては除雪車での経験が豊富にあり、運輸局との交渉にも精通していました」。そしてここから山本の奮闘が始まる―――。

規制の厳しい普通貨物自動車として開発

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まず、運輸局への概要説明だ。2019年1月、どんな車両で、どのエリアを、どれくらいの頻度で走行するのか。一通りの計画を報告した。その後、実際に車両を製造する前に、試作車申請書を運輸局に提出するのだが、ここで最初の壁にぶつかった。車種区分である。「普通貨物自動車」なのか、それともクレーン車やショベルカーと同類の「大型特殊自動車」なのか。どちらの区分になるかでナンバープレートの種類だけでなく、排出ガスや騒音の規制なども大きく変わる。前者のほうがハードルは高く、造り方も違ってくる。今回のCP車は大型で特殊な車ではあるものの、“貨物を運ぶ”という明確な目的があることから、普通貨物自動車に認定された。「より厳しい排出ガスの基準値を満たすためには、国産のエンジンでは難しく、検討した末、ドイツから取り寄せることを決断しました」。2019年7月、運輸局から試作車申請の許可が下りると、本格的に車の製作がスタート。山本は操業部門や整備部門の担当者とともにN社の本社工場に何度も足を運び、設計の打ち合わせを重ねた。

検討と調整の末ついに日本初Wアンダーキャブ型CP車が公道へ

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いかに国が定める保安基準を満たしつつ、操業性やメンテナンス性を兼ね備えた仕様を確定させるか。その検討や細かい設計変更に多大な時間を要した。一方で、倉庫の立ち上げが決まっていたため、スケジュール管理も一苦労だったと山本は振り返る。約1年半の開発期間を経て完成したCP車は全長18m、車幅3.15m。車検取得のための保安基準は車幅2.5m以下、長さ12m以下、その他車両重量や軸重等、保安基準適用を除外する項目を整理し、2020年9月、基準緩和認定申請(特区)を提出。同年10月に許可され、ついに日本初となるWアンダーキャブ型CP車の車検取得が実現した。公道を走り、倉庫への製品輸送が無事に完了できた時はほっと安堵したと山本は言う。「おかげで効率的な輸送が可能になり、物流コストを抑制。トレーラー複数台輸送と比較しCO2削減による環境負荷の軽減にもつながり、地域社会にも貢献できたのではないかと思っています」。

IN THE END

山本 哲也

プロジェクトに携わって

多くの人が関わるプロジェクトでは、誰もが常に同じ目線で取り組めるように些細な情報でも積極的に発信し、情報共有することが大切だと痛感しました。最初は打ち合わせに出ても話についていけなかったのが、1年後にはプロジェクトをけん引する立場になれたことに自分の成長を感じています。部門の枠を超えて信頼関係を築くことができたことも、今後につながる財産です。

山本 哲也
2010年入社 九州支店八幡地区 物流技術部 物流技術課

記載された写真および原稿は2022年1月時点のものです。