KEY ELEMENTS

  • 機関車

    機関車

    ディーゼルエンジンで走行する。製鉄所内に敷設された鉄道を用い、一度に1,000トンを越える貨物を運ぶ事ができる。

  • トーピードカー

    トーピードカー

    高炉から出る溶けた鉄を運ぶ貨車。高温に耐え得るよう、内部には特殊な耐火煉瓦が敷き詰められている。機関車により牽引される。

製鉄所内の物流効率化を推し進める

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製鉄所構内を走る鉄道の技術開発や操業に関わる改善策を考えるのが、鉄道・鋼片部 鉄道・鋼片技術課の役割。製鉄所内の物流効率化を更に推進するため、様々な施策を検討・実行している。その中で「機関車の無人運転化を検討し、操業に関わる人員を削減して合理化を進める」ことを発案した。検討の結果、「実現可能」という結論に至り、鉄道・鋼片部としての施策を日本製鉄㈱に提案。実現に向けて開発に着手するようゴーサインが出たのは2017年3月末のことだった。

若手技術社員を中心人物に抜擢

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誰が中心となってこのプロジェクトを進めるか。鉄道の技術開発に携わる鉄道・鋼片技術課の課長が指名したのが、同課の若手社員、井上だった。彼は大学で船舶海洋工学を専攻し、そこで培った工学的知見を活かせるシーンを求めて日鉄物流に入社。東日本支店君津地区に配属され、鉄道・鋼片技術課で鉄道操業を支える基盤整備や収支管理などを担当していた。積極的に新しい知識を吸収し、仕事の手順を一通り飲み込んだ頃から、彼は「新たな技術を開発するような、ダイナミックな案件を手掛けたい」と強く思うようになっていた。「やってみろ」課長に声をかけられた瞬間、今まで以上に意欲が高まるのを感じた。

実用化を見据え「簡易・低コスト」にこだわる

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井上を筆頭に、鉄道の操業や整備に関わる社員も参加して開発チームが結成された。彼らがこだわったのが「簡単な仕組み、かつ低コストで導入できる」こと。考案した技術の概要はこうだ。『①発進から停止までの機関車の動きをパターン化する。②操縦者の行う加減速・停止などの操作信号を線路上に配置するIDタグに置き換える。③機関車に設置したタグリーダでIDタグの信号を読む。④タグリーダで読んだ信号を既設の機関車運行制御装置に入力する。』この技術ならば、地上タグとアンテナを設置するだけで、無人運転区間の拡大も対象機関車の追加も低コスト・フレキシブルに行うことが可能だ。

機関車は無人走行するか!?

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完成・実用化は3年後を予定。初年度は無人運転化技術の確立を目指し、6回の試験を行う。機関車の改造や機器の準備が整った8月、第1回目の試験を実施。無人運転モード搭載の制御盤やアンテナを取り付けた機関車を試験区間に移動させ、地上タグを設置したレール上を走らせる。試験目的は、機関車につけたアンテナが地上タグの信号を受信するかの確認。理論上は当然、信号を受信した機関車は無人走行を行うはずだが、必ずしも理論通りに物事が進むわけではない。試験が開始され、固唾を飲んで見守る井上たちの前を、無人運転に切り替わった機関車が駆け抜けていく。喜びと安堵感をかみしめた瞬間だった。

開発は試行錯誤の連続、それがまた楽しい

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しかし、100%の出来ではなかった。無人運転でテスト走行している間、機関車の動きが有人運転の時よりどこかぎこちない。開発チームは不具合の原因を追究し、改善に取り組んだ。次段階は、機関車の発車と停止。それに成功したら発車と停止の間に加減速の工程を加える。さらに、地上タグからの信号が受信できなかった場合を想定した、通信エラー発生時のバックアップ機能の確認――。試験で想定した結果が得られなかった場合は何が原因なのか明らかにし、その解消を図る。試行錯誤を繰り返す、粘り強さが必要な作業だ。「けれどそれがまた楽しい」と井上は笑顔を見せる。

さらに進化させ、横展開するのが目標

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試験結果の報告を関係各所に展開したり、次回試験の方案を検討したり。プロジェクト主担当としての業務の中で、特に井上が重視しているのが進捗状況や開発プロセスのこまめな記録である。「今後、社内で同様の取り組みを行う時にも役立つように」と井上は言う。まずは目標通り、1年目で機関車の無人運転の目処がついた。今後は無人運転区間の安全確保など、さらに実用に近づくための取り組みを進めていく。現在のところ無人運転ができるのは一定区間だが、徐々にその範囲を広げていきたい、と彼は今後の展望を語る。「少しでも早く実用化して、私たちがやってきた事を各地の製鉄所でも活用できたら、これほど嬉しいことはないと思います」

IN THE END

山畑 広豊

プロジェクトに携わって

経験の浅い自分が、今後の構内物流の在り方にも関わる重要なプロジェクトを担うチャンスを与えられたと知った時は、驚きと同時にモチベーションが大きく上がるのを感じました。プロジェクトを進める中で周りの方が快く力を貸してくれ、ともに試験結果に一喜一憂してくれる様子に、「皆で力を合わせて一つの目標に向かって歩む」やりがいと楽しさを味わっています。

井上 優太
2015年入社 東日本支店君津地区 鉄道・鋼片部 鉄道・鋼片技術課

記載された写真および原稿は2017年12月時点のものです。